倫理、政治・経済
総評と分析
倫理分野は引き続き読解力重視で、『君たちはどう生きるか』の吉野源三郎の著書からの引用もあった。政治分野では宇宙条約違反となる事例を考える問題など、経済分野では模式的なデータを用いた問題など、思考力型の設問が例年以上に多かった。
第1~4問の倫理分野では6~8択の選択肢がやや増加。影響関係など大局的な思想史の理解も求められ、新課程移行を意識したような心理学の内容も見られた。政経分野の第5~7問では、単純な知識問題はわずかしかなく、設問の誘導に沿って考えていく理解力・思考力を問う設問が前年以上に多くなった。なかでも経済分野で模式的なデータを用いた計算問題など、数量的な理解力・思考力によって差が広がりそうな設問が目立った。
問題分析
大問数 | 前年と同じ7。 |
---|---|
設問数 | 前年と同じ32だが、2つの設問が連動している箇所もあり。 |
解答数 | 前年と同じ32。 |
問題量
- 倫理分野では写真・絵画・グラフの掲載がなく、原典資料は5つ収録され、問題量そのものは前年並み。政経分野の問題量は前年並みだが、文・図表など資料は増量。
出題分野・出題内容
- 前年と同じく、全設問が「倫理」および「政治・経済」と共通。
- 第1問(東西源流思想)、第2問(日本思想)、第3問(西洋近代思想)、第4問(心理学・現代の倫理)は、いずれも「倫理」からの抜粋で、「思想と芸術鑑賞」「後悔についての考察」などがテーマ。資料文は吉野源三郎『人間の尊さを守ろう』、カント『判断力批判』、ルソー『人間不平等起源論』など。
- 政経分野の第5問(M・ヴェーバー『職業としての政治』など主として政治分野の総合問題)、第6問(経済分野の総合問題)、第7問(宇宙条約の条文など主として国際分野の諸問題)は、いずれも「政治・経済」からの抜粋。
出題形式
- 倫理分野では、6~8択形式の設問が目立つ。また大問全体を通じてテーマを深める構成も意識され、会話文や小問が有機的につながっていた。政経分野では、正文か誤文を選ぶだけの単純な正誤判定問題は前年の5から1に減り、該当するものをすべて選ぶ組合せ問題は前年の3から5に増えたほか、センター試験から見られた年代順の問題の設問数が前年の1から0になった。
難易度(全体)
- 倫理分野では該当するものをすべて選ぶ形式など、6~8択問題が目立った。政治分野では、知識なしでも読解力があれば正答できる設問が目立った。しかし経済分野では一部に難問があり、平均点を下げたと見られる。総合して、難易度は前年並み。
第1問 (12点満点)
配点 | 出題内容 | 難易度 | |
---|---|---|---|
12 | 「思想の継承」(東西源流思想) | やや難 |
「思想の継承」をテーマとした、東西源流思想分野からの出題。問1はギリシア哲学の後世への影響をめぐる出題で、新プラトン主義とアウグスティヌス、12世紀ルネサンスなども踏まえる。問2は先行する思想を批判した古代の思想家をめぐる地域横断的な出題。問3は中国の仏教徒である牟子の『理惑論』から抜粋した文章と会話を融合させた読解問題で、インドで生まれた仏教の中国的展開に言及される。問4はユダヤ教をめぐるイエスの言動に関する出題で、律法の内実の理解が重要。
第2問 (12点満点)
配点 | 出題内容 | 難易度 | |
---|---|---|---|
Ⅰ | 6 | 「日本人と平和」(日本思想その1) | やや難 |
Ⅱ | 6 | 「日本人と平和」(日本思想その2) | 標準 |
「日本人と平和」をテーマとした日本思想史分野からの出題。戦争、疫病、災害が扱われた。問1は古代日本の一般的な信仰などに関して問われ、民俗学者の折口信夫も出題された。問2は古代日本の仏教をめぐるやや細かい出題で、空海の「鎮護国家」で特に迷うだろう。問3は江戸時代の儒教に関する俯瞰的な出題で、思想家の個人名は問われないが、知識を活用した全体的な把握ができていないと解けないような内容であった。問4は2023年に公開されたアニメーション映画とタイトルを同じくする著書『君たちはどう生きるか』の原作者、吉野源三郎の『人間の尊さを守ろう』を扱ったやや長い資料文の読解問題であり、解答に時間を要する。
第3問 (12点満点)
配点 | 出題内容 | 難易度 | |
---|---|---|---|
Ⅰ | 6 | 「思想と芸術鑑賞について」(西洋近代思想その1) | 標準 |
Ⅱ | 6 | 「思想と芸術鑑賞について」(西洋近代思想その2) | 標準 |
西洋近代思想からの出題で、一連の会話文などのテーマは一貫している。問1は宗教改革の影響に関する思想史の俯瞰的な出題で、適当な記述をすべて選ばなければならず、やや難。問2はカントの『判断力批判』を用いた知識と読解の融合問題で、「独断のまどろみ」に関する記述は、ルソーではなくヒュームが正しい。問3はルソーの『人間不平等起源論』に関する空欄補充問題であり、内容は標準的ではあるが、学習が中途半端だとつい「一般意志」などを選んでしまった可能性もある。問4は、全体のまとめとしてのノートの空欄補充問題だが、空欄前後の記述とつながる内容を選ぶのにやや苦労する。
第4問 (14点満点)
配点 | 出題内容 | 難易度 | |
---|---|---|---|
14 | 「後悔をめぐる考察」(心理学・現代の倫理) | 標準 |
後悔をめぐる考察をテーマにした大問。問1は青年期・心理学分野の人物に関する標準的な問題で、ピアジェやクーリーなど、新課程移行後により扱われるであろう人物も先んじて登場した。問2の(1)はハイデガーの思想についての標準的な問題。問2の(2)は哲学者J・ラズ「世界のうちにあること」を用いた資料読解問題で、読解量は多めだが、内容は易しめ。問3は全体的なまとめとして会話内容を踏まえて空欄補充する問題で、内容は難しくないが、文脈を把握するのに骨が折れたかもしれない。
第5問 (19点満点)
配点 | 出題内容 | 難易度 | |
---|---|---|---|
19 | 公私の団体・集団 | 標準 |
「政治・経済」第2問から6設問を抜粋。問1の資料文(マックス・ヴェーバー著『職業としての政治』の抜粋)は国家の強制力という硬派な内容だが、選択肢の記述が平易なので難しくない。問2は雇用保険などの財源の負担者というやや細かな内容で正答率が低いだろう。問3は日本国憲法第20条の条文に沿った設問で、憲法の逐条的理解が求められた。問4・問6はそれぞれ特定商取引法・臓器移植法の改正というマイナーな話題を取り上げたものだが、知識なしでも読解力だけで正解に至る。問5は会社や株主の責任というやや細かな内容で正答率が低いだろう。
第6問 (19点満点)
配点 | 出題内容 | 難易度 | |
---|---|---|---|
19 | 経済成長とグローバル化 | やや難 |
「政治・経済」第3問から6設問を抜粋。問1はGDP統計の基礎を理解するための小麦農家・製粉会社・製パン会社からなる経済というおなじみの設定がそのまま用いられており易しい。問2は三面等価の原則などの基本問題なので易しい。問3は市場の失敗の定義についての平易な設問。問4は環境問題に関連する設問だが、実際には食塩水の濃度の計算問題を応用したもの。問5は比較生産費説についての計算問題だが難問と言える。問6は輸入解禁により市場価格が国際価格に引きずられることを知っていないと難しい。
第7問 (12点満点)
配点 | 出題内容 | 難易度 | |
---|---|---|---|
12 | 国際社会と日本 | 標準 |
「政治・経済」第4問から4設問を抜粋。問1はグロティウス、ホッブズ、ロックの著作の一節に明快なキーワードがないので判別が難しい。問2は「人口オーナス」の知識があれば易しい。問3は第二次所得収支が問われた珍しい出題。問4は宇宙条約の条文と後の記述を照合すれば易しい。
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