化学
総評と分析
昨年と比べ読解力、思考力、計算力を問う設問が増加した一方で、比較的解きやすい知識問題も多く、時間の使い方が問われた。
第1問から第3問にわたって見慣れない反応や普段意識しない視点からの設問が複数出題されたほか、第5問は教科書では一般的ではない質量分析のスペクトルを考察させるなど、思考力を問う問題が目立った。それ以外の知識問題は標準的であった。
問題分析
大問数 | 5で昨年から変更はない。 |
---|---|
設問数 | 昨年に比べ、1増の19。 |
解答数 | 昨年に比べ、4減の31。 |
問題量
- 昨年と比べ計算問題の数はやや減少したが、全体的に見て設問数および文章量が増加し、さらに考察問題が複数出題された。
出題分野・出題内容
- 第1問は物質の構成、物質の状態、第2問は物質の変化からの出題でいずれも理論分野である。第3問は物質の変化、無機化学、第4問は有機化学からの出題である。第5問は質量分析法とその結果として得られるスペクトルの考察問題。
- 第1問の問4cは、選択肢の数値が近い値をとっており、しっかり計算を行う必要があった。第2問の問3は、電子1molを得るために必要な反応物の質量を比較することを考えさせている。第3問の問4bは、必要な塩素の物質量がNiSの物質量で決まることに気づくことができたかが問われた。問4cの2種類の反応が競合して起こる電気分解の計算もややこしい。
- 第5問は、受験生には見慣れない質量分析法とそのスペクトルの予想であった。問1のグラフ読み取りは平易であったが、問2の組成分析は実験の流れを整理できないと難しい。問3のスペクトルの予想は、分子や断片の相対質量の総和にピークがくることに気づくことができれば予想はつきやすいが、限られた時間で処理するのは酷だったと思われる。
出題形式
- 昨年に続き、第1問の問4、第2問の問4、第3問の問4、第4問の問4、第5問の問3など比較的長文の問題を読み取り、それに関する問をいくつか配置する大問形式の問題が出題された。また、答えの数値自体を解答させる問題は出題されなかった。
難易度(全体)
- 実験を題材にした読解力と考察力を要する問題や、目新しい題材を扱った問題が見られたが、全体としての難易度はやや易化した。
第1問 (20点満点)
配点 | 出題内容 | 難易度 | |
---|---|---|---|
問1 | 3 | 配位結合 | 易 |
問2 | 4 | 液体と気体の体積の比較 | やや易 |
問3 | 3 | コロイド | 易 |
問4 | 10 | 水に関する総合問題 | 標準 |
物質の状態の分野からの出題。問1の選択肢のギ酸イオンの原子間の結合はすべて共有結合である。問2は16gの液体の体積を求め、気体の状態方程式から気体の体積を求めればよい。問3はコロイドがろ紙を通過し、セロハンの膜を通過しないことがわかれば平易。問4のaは状態図の見方がわかれば平易。bは図2の12度と−4度の密度を比べるだけある。cは正確な計算が必要であった。
第2問 (20点満点)
配点 | 出題内容 | 難易度 | |
---|---|---|---|
問1 | 3 | エネルギー図 | 易 |
問2 | 3 | 平衡移動 | やや易 |
問3 | 3 | 電池の反応と量的関係 | 標準 |
問4 | 11 | 電離定数 | 標準 |
物質の変化の分野からの出題。問1のエネルギー図の問題は吸熱なので矢印が上向きとなる。問2は典型的な平衡移動の問題。問3は各反応において何molの電子が流れるかがわかるかがポイント。問4のaは電離定数、電離度、濃度の関係式から考える。bは図1よりHAとAの陰イオンの濃度を読み取り、それを電離定数の式に代入すればよい。cは、選択肢の4が正解だが、Aの陰イオンの濃度が減少するのは水溶液の体積が増加するからである。
第3問 (20点満点)
配点 | 出題内容 | 難易度 | |
---|---|---|---|
問1 | 4 | 化学物質の取り扱い | 易 |
問2 | 3 | アスタチンの性質 | やや易 |
問3 | 4 | ステンレス鋼とトタンの成分 | やや易 |
問4 | 9 | ニッケルの製錬 | やや難 |
無機物質の分野からの出題。問1は実験室で扱う化学物質の取り扱いの正誤問題で、いずれも基本的。問2はハロゲンの一種であるアスタチンの性質に関する正誤問題。アスタチン自体は教科書で一般的には扱わないが、他のハロゲンと性質が似ているという情報から難なく解ける。問3のステンレス鋼とトタンの成分は基本的。問4のaは酸化数変化に注目するだけで基本的。bは2つの式を考慮し、求める塩素の物質量がNiSの物質量で決まる。cは陰極で2つの反応が競合して起こることと、文字式による計算があるため、時間を取られる問題であった。
第4問 (20点満点)
配点 | 出題内容 | 難易度 | |
---|---|---|---|
問1 | 4 | アセトアルデヒドの合成 | 易 |
問2 | 3 | 高分子化合物の性質 | やや易 |
問3 | 4 | ペプチドの反応と性質 | 標準 |
問4 | 9 | 医薬品の性質と構造 | 標準 |
有機化学の分野からの出題。問1のアルデヒドの合成法、問2の高分子化合物の性質についての知識問題はいずれも基本的。問3は選択肢すべてが正しいものなので戸惑ったかもしれないが、知識としては標準的。問4のaの知識問題は平易。bは、ラクタム環構造が見慣れなかったかもしれないが、アミド結合の一種で、炭素3つと窒素1つからなる環構造であることに注目できれば解ける。cは、ニトロ化や酸化反応、還元反応であることと、置換基の位置に注目して整理できれば解ける。
第5問 (20点満点)
配点 | 出題内容 | 難易度 | |
---|---|---|---|
問1 | 4 | テストステロンの質量とイオンの信号強度 | 標準 |
問2 | 4 | 質量分析法による銀の同位体の物質量決定 | 標準 |
問3 | 12 | 様々な物質の質量スペクトル | やや難 |
質量分析法に関する総合問題。問1はテストステロンの質量と信号強度の比例関係から解ける。問2は求める銀の物質量を文字で置き、実験に従って質量数107および質量数108の銀の物質量をその文字式で表して立式すればよい。問3のaは同位体の存在比だけでなくイオンの相対強度も考慮する必要があり難しい。bはグラフから正確な相対質量を読み取り、与えられた各原子の相対質量から組合せを求める。cは1箇所または2箇所で切断されることで生じる断片イオンの相対質量の組合せが正しく示されているかがポイント。
平均点(過去5年分)
年度 | 2023年度 | 2022年度 | 2021年度 | 2020年度 | 2019年度 |
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平均点 | 54.01点 | 47.63点 | 57.59点 | 54.79点 | 54.67点 |
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