公共,政治・経済
総評と分析
公共分野は、テーマ型の出題と哲学の出題が中心。政治・経済分野の小問数では政治分野が少なく、経済分野が多数を占めた。新型コロナ禍の影響を考慮するなど、時事的な出題が目立った。
公共分野は2022試作問題に近く、男女共同参画社会などテーマ型の第1問と哲学の小問が主体の第2問で構成。政治・経済分野の第3~6問は多くが両分野の融合問題だが、小問数では政治分野が少なく、経済分野が多数を占めた。また、新型コロナ禍を考慮した出題など、時事的な出題が多かったと言える。
問題分析
大問数 | 6 |
---|---|
設問数 | 32 |
解答数 | 32 |
問題量
- 政経分野4問題は前年と同じ(小問数は6減)だが、公共分野2問題が加わり、前年よりやや増えている。(以下全て「前年」は2024本試験「政治・経済」)
出題分野・出題内容
- 公共分野の第1・2問は順に、男女共同参画社会と、公共空間がテーマ。後者でハーバーマスなどの哲学や帰納法の理解が問われたのが特徴的。
- 政経分野の4問題は多くが政治分野・経済分野の融合問題だが、小問数では政治分野が少なく経済分野が多い。新型コロナ禍の影響を考慮するなど時事的な話題が目立った。
出題形式
- 正文を選ぶだけ(資料なし)の単純な正誤判定問題の小問数は前年と同じ3と少ない。該当するものをすべて選ぶ組合せ問題の設問数は前年の6から4へ。
- それ以外は例年どおり、設問中の文章の空欄補充問題、図表問題、その他の組合せ問題で構成された。
- 最終第6問では、前年の連想図ではなく、例年どおりの課題探究の設定を採用。
難易度(全体)
- やや易化。前年の本試験「政治・経済」の平均点がセンター試験以降の最低だったのに比べると、ヒントになる各小問のメモ・会話文などが多用されているほか、「公共」2問題に知識を要しない図表読解問題が各1あるなど、若干易しくなった。ただし旧課程科目を受験する過年度生がいなくなるので、顕著な変化はないだろう。
第1問 (12点満点)
配点 | 出題内容 | 難易度 | |
---|---|---|---|
12 | 男女共同参画社会をめぐる探究活動 | やや易 |
日本の男女平等をめぐる問1は易しい基本問題。問2では、表の二つの調査項目それぞれで回答割合の高い部分と低い部分に印をつけておくと考えやすい。問3は、表に加えて会話文が長いのでやや時間がかかるが、落ち着いて選択肢を検討すれば易しい。問4は、形式的平等と実質的平等の区別に加え、1997年制定のアイヌ文化振興法と2019年のアイヌ民族支援法の区別も問うという、やや不自然に見える出題だった。
第2問 (13点満点)
配点 | 出題内容 | 難易度 | |
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13 | 公共空間をめぐる探究活動 | 標準 |
問1は、ハーバーマスと対話的理性に加え、アーレントの「活動」の理解も問われ、正答率が低いと予想される。問2では、表の各項目で数値の最高・最低の部分に印をつけておくと考えやすい。問3は難しくはないが、帰納法と演繹法の理解を問うという骨のある良問。問4は、対面だけか非対面だけか、両者が混在したハイブリッド型かを区別すれば易しい。
第3問 (18点満点)
配点 | 出題内容 | 難易度 | |
---|---|---|---|
18 | 政治・経済の融合問題 | やや易 |
問1は、1970年代の石油危機によるスタグフレーション(物価上昇率も失業率も高い)に気づけば易しい。問2も易しいが、全国知事会の指摘する合区選挙の弊害を出題した点が新しい。問3も、メモの文章から食料安全保障と地産地消がすぐ分かって易しい。問4は、「思想の自由市場論」という聞き慣れない用語に少し戸惑うが、会話文の誘導に素直に従えば易しい。問5は、ふるさと納税についてのメモの読解にやや時間がかかり、やや難しい。問6では、補償と賠償や公助と共助の違いの正確な理解が問われた。
第4問 (19点満点)
配点 | 出題内容 | 難易度 | |
---|---|---|---|
19 | 国際政治経済 | やや難 |
問1では中央銀行が供給するマネタリーベースと経済全体のマネーストックの区別に加え、金利上昇で国債の市場価格が下がることも問われ、難問だった。問2では、貿易収支の+-による判断に加え、右目盛の一人当たり名目GDPの数値で先進国か否かを判別したい。問3は、2008年の世界金融危機(リーマンショック)の原因だったサブプライムローン問題とその後に欧州で起きたユーロ危機の前後関係を問う知識問題。問4では、国際刑事裁判所についての正確な理解が問われた。問5はロシアのウクライナ侵攻に関連する時事的な出題。アラブの春をめぐる問6は、シリアのアサド政権崩壊(2024年12月)を経て、結果的に時事問題と化した。
第5問 (19点満点)
配点 | 出題内容 | 難易度 | |
---|---|---|---|
19 | 格差や労働の諸問題 | 標準 |
問1ではBOP(base of the economic pyramid)ビジネスという詳細事項が出題された。問2の技能実習制度については会話文のうち、発展途上国への技能・知識の移転を「目的として掲げた」と考えればよい。問3ではノーマライゼーションに加え、障害者雇用促進法の障害者雇用率制度の理解が問われた。問4は、契約自由の原則が労働契約には必ずしも当てはまらない理由を考える良問。問5は、労働生産性のうち就業者一人当たりのそれと就業1時間当たりのそれとの関係などデータの分析力を問う良問。問6は易しいが、日本企業のメンバーシップ型雇用とジョブ型雇用の対比が出題された点が新しい。
第6問 (19点満点)
配点 | 出題内容 | 難易度 | |
---|---|---|---|
19 | 企業の新規参入の促進をめぐる探究活動 | 標準 |
株式会社についての問1では空欄ウで「株主代表訴訟の手続の簡素化」という詳細事項が出題された。問2は需要・供給曲線の計算問題という珍しい出題。問3は一人当たり実質GDPの理解のほか、知的財産権保護の強弱の影響という思考力を問う良問。問4は検察官の不起訴処分と検察審査会の議決などの関係の理解を問い、問5は製造物責任法の理解を問う、いずれもオーソドックスな出題。問6は易しいが、企業の農業参入について考える良問。
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