公共,倫理

総評と分析

昨年の共通テストと比較して、日本思想分野で図版が復活し、任意選択・連動型の設問がなくなるなど、微調整がなされた。認知心理学分野では、最新の科学技術動向を踏まえた脳や生命倫理に関する出題が中心であった。


公共分野は他の公民科目と共通。2年目の新課程問題であり、形式として昨年から微調整された点も見受けられた。会話文のテーマは普遍的なものが多くなった。ただし一部の知識問題などでは、授業で受験生が習わないポイントでの正誤を判定させるなど、説明不足・条件提示不足にも由来する取り組みにくい選択肢が見られた。

問題分析

大問数 6
設問数 32
解答数 32

問題量

  • 倫理分野の原典資料は5で、昨年から変化なし。図版は、昨年は心理学の設問中の表のみ収録であったが、今年は日本思想分野で復活した。全体のページ数は微減。

出題分野・出題内容

  • 第1問(公共分野・社会保障制度の現状と課題)、第2問(公共分野・グローバル化が進む現代社会の文化や宗教)、第3問(東西源流思想と西洋近現代思想)、第4問(日本思想)、第5問(認知心理学)、第6問(現代の倫理)という昨年と同じ構成であった。
  • 第3問のテーマは「悪」であった。昨年は「推し」が会話で扱われ、流行に則った導入と言えたが、そこからやや普遍的なテーマとなった。源流思想から西洋近現代の思想まで満遍なく出題された。20世紀の哲学者であるチャールズ・スティーヴンソンが読解問題で出され、知識問題では、預言者イザヤやスーフィズムなど授業でほぼ扱われない固有名詞があった。
  • 第4問のテーマは「理と情をめぐる考察」であり、比較的オーソドックスな出題であった。歴史をたどりながら、森鷗外、赤穂事件や坂口安吾など、主として江戸時代以降の人物が出題された。
  • 第5問は「BMI(ブレイン・マシン・インターフェイス)」の紹介を導入に、脳と身体をめぐる考察が中心の出題であった。心理学の実験は昨年同様に出題され、基礎的な認知心理学分野の知識問題もあったが、条件提示不足とも言えた。全体的に心理学よりは脳やQOLに関する倫理学的な話題であった。AIの発展と異分野融合に関する「倫理的・法的・社会的課題(ELSI)」について考察させる出題もあった。
  • 第6問のテーマは「人間と自然との共生」であり、気候・気象制御技術の影響を考察する問題など現代的な出題も見られた。全体的には、ノージック、レイチェル・カーソン、ピーター・シンガーなど標準的・近年頻出の人名も見られたが、内容的に細かい箇所もあった。

出題形式

  • 形式面では、昨年まで姿を消していた図版が日本思想分野にて復活した。読解力重視の傾向は続いたものの、オーソドックスな4択問題も見られた。任意選択・連動型の設問が消滅した。

難易度(全体)

  • 公共分野で倫理選択者にとっては難しいであろう出題が一部に見られた。倫理分野では、説明不足・条件提示不足であろう出題が目立ったが、容易に解ける基礎的な内容の出題も多々あった。難易度は結果としてやや易化。

第1問 (12点満点)

配点 出題内容 難易度
12 「社会保障制度の現状と課題」(公共分野) やや難

「社会保障制度の現状と課題」についての講演会を題材に、経済分野を中心として様々な分野から出題された。問1は災害が発生した際の「公助」の具体例と、ロールズの「格差原理」を社会保障制度に適用した場合の考え方を選ぶ問題。問2は経済指標と経済成長、税制についての知識問題。問3は各国の社会保障財源の対GDP比についての表の読み取り問題。問4は社会保障の4つの柱のうち、社会保険と公的扶助についての知識問題。

第2問 (13点満点)

配点 出題内容 難易度
13 「グローバル化が進む現代社会の文化や宗教」(公共分野) 標準

グローバル化が進む現代社会の文化や宗教についての探究活動を題材に、様々な分野から出題された。問1は文化の捉え方・考え方についての知識と、会話文の流れから、空欄に入る記述を選ぶ読解力が必要な問題。問2は2つの資料の内容についての3つの意見のうち、資料を正しく読み取れているものを選ぶ問題。問3は日本における政教分離をめぐる最高裁判所の判例についての知識問題。問4は伝統や文化との関わりについての知識と、宗教の捉え方が2つ示され、会話文で示された事例はどちらに通じるところがあるかを判断する読解力が必要な問題。

第3問 (28点満点)

配点 出題内容 難易度
場面1 9 「悪について」(東西源流・西洋近現代思想) やや難
場面2 9 「悪について」(東西源流・西洋近現代思想) 標準
場面3 10 「悪について」(東西源流・西洋近現代思想)

3つの場面で会話は区分されているが、テーマは一貫している。問1は善悪と人間をめぐる考察についての標準的な出題であり、ルターと自由意志論争をしたエラスムスが人間に自由意志を認めているという知識が必要。問2は法や規範、規律をめぐる思想についての出題で、預言者イザヤは教科書や授業で重要視されない人物のため、学習していた生徒は少ないであろう。スーフィズムについても倫理ではほとんど扱われないため、この2つの選択肢の正誤判断がつきにくく難しかったと思われる。なお正解であるグロティウスの記述にも疑問が残る。問3はプラトンの『クリトン』を用いた空欄補充問題で、広く知られたソクラテスの基本思想とそれに基づく受刑の話なので易しかったはずである。問4は西洋思想における感情と道徳の関係性についての問題で、一部記述からニーチェによるキリスト教批判であることはわかるが、やや飛躍的な言い換えが見られた。ヒュームについても踏み込んだ内容となっており受験生は習わない範囲と思われる。フロイトについては内容がわからずとも「抑圧」というキーワードで判断がつくようになっている。問5は20世紀の哲学者チャールズ・スティーヴンソンによる「信念の不一致」「態度の不一致」をめぐる標準的な資料読解問題。問6は自己の内面をめぐる思想の説明であるが、アウグスティヌスについての記述がやや曖昧なものとなっている印象。カントについても文章が少々わかりにくかった。問7は初期の仏典である『ダンマパダ』と大乗経典である『維摩経』を扱った資料読解問題であり、易しかった。問8はアーレントとヤスパースについての空欄補充問題であるが実質は基礎的な知識問題。問9はこれまでの会話の主旨を理解できているか確認しつつ功利主義者についても問うた易しい空欄補充問題。

第4問 (15点満点)

配点 出題内容 難易度
15 「理と情」(日本思想) やや易

全体の中では比較的オーソドックスな出題が多かったが、赤穂浪士を取り上げているのはやや珍しい。問1は森鷗外に関する空欄補充問題で、知っていれば問題ないが、福沢諭吉の誤答の方が肯定的な内容なのでつい選びたくなったかもしれない。問2は地獄草紙と来迎図の、ともに図版を用いた空欄補充型知識問題で、源信の著書である『往生要集』を知っているかどうかで明暗が分かれたと思われる。法然と専修念仏をセットで覚えていた場合はセットで間違いやすくなったであろう。また大日如来と阿弥陀仏の違いは少々盲点になりがちな知識。問3は和辻哲郎の風土比較論に関する基礎的な空欄補充型知識問題。問4は赤穂浪士を題材に法と義について扱った読解問題。問5は坂口安吾の『堕落論』を引用した資料読解問題。どちらも容易に正解を選ぶことができたであろう。

第5問 (16点満点)

配点 出題内容 難易度
16 「BMI(ブレイン・マシン・インターフェイス)」(心理学・倫理学) 標準

新課程カリキュラムである認知心理学分野からの大問だが、最新の科学技術動向を踏まえた倫理的課題も問われた。問1は「基本感情」が問われているが、心理学者エクマンの名などが提示されなければ本来は判別できない。問2はシャクターとシンガーの「二要因理論」を扱った実験読解問題。自分の心拍数・呼吸数が上がっているという状況を、「飲料」とは別の要因で解釈する参加者が「楽しい気分になった」と示される必要があるが、初見でこの実験の意義が十全に理解できる設問の作りにはなっていない。問3は珍しい5択の単純選択問題で、一般常識的な観点も踏まえて解く必要があった。問4および問5も、複数の文を読む必要があったが、内容的に難しくない。事前の対策が難しい、応用的な出題であった。

第6問 (16点満点)

配点 出題内容 難易度
16 「人と自然との共生」(現代の倫理的課題) 標準

環境倫理学分野を中心とした構成の大問。問1は「権原理論」から「最小国家」論を説いたノージックの基本的立場。ノージックおよびリバタリアニズム(自由至上主義)はやや発展的な内容だが、選択肢そのものは難しくない。問2はそれぞれの選択肢に迷う要素があり、授業で習わない過度に細かい箇所などに誤りのポイントが隠されていた。なおシンガーは功利主義を応用し、動物も人間と同じように苦痛を感じることを強調する(主に家畜として扱うことを批判する)。問3はアとイの意見が誤りとされているが、何々「の観点から考えると」の意味が非常に曖昧であり、後に続く文の解釈に苦しむ要因となる。問4はカーソン『沈黙の春』を用いた標準的な資料読解問題。問5は水俣病とレオポルドの「土地倫理」を扱った空欄補充問題で、当てはまる記述を選ぶ必要があるが、それぞれの選択肢に迷う要素は少なかった。

平均点(過去5年分)

年度 2025年度 2024年度 2023年度 2022年度 2021年度
平均点 59.74点
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